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東京高等裁判所 昭和56年(ラ)125号 決定

抗告人

大勝製紙株式会社

右代表者

森宏

右代理人

長橋勝啓

主文

原決定を取り消す。

抗告人に対し金八万六五〇〇円を還付する。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取り消し、抗告人に過納手数料金八万六五〇〇円を還付する、との決定を求めるというのであり、その理由は、別紙「抗告の理由」のとおりである。

記録によれば、抗告人を原告、富士紙工株式会社、後藤庸視及び日章紙工株式会社を共同被告とする静岡地方裁判所富士支部昭和五一年(ワ)第一九七号約束手形金等請求事件において、抗告人は、富士紙工株式会社及び後藤庸視に対し、右両名が連帯責任を負う約束手形金八二六一万二八四七円及び売掛代金一一七万三三八九円合計八三七八万六二三六円のうち三七一五万八八七五円の支払いを求め、また、日章紙工株式会社との間において、富士紙工株式会社が日章紙工株式会社に対する債務の弁済に代えて営業用動産類を譲渡した行為が詐害行為に当るとして、その取消しを求めるとともに、日章紙工株式会社に対し、右物件の価格相当一七三五万九七〇二円及び売掛代金一五四万八七三一円合計一八九〇万八四三三円の支払いを求め、右訴訟の訴額を五六〇六万七三〇八円としてその手数料二八万三四〇〇円を納付したことが認められる。

そこで、右訴訟事件の訴額につき検討する。まず、抗告人と富士紙工株式会社及び後藤庸視との関係においては、右両名に対する手形金等請求はその経済的利益が共通であるから、訴額を合算せず、共通の請求額三七一五万八八七五円をもつて両請求を合せた訴額とすべきであ判旨る。次に、抗告人と日章紙工株式会社との関係においては、詐害行為取消請求は前記手形金等請求と経済的利益を共通にするというべきであるから、右両請求の訴額は、いずれか多額のものによるべきことになる。この点につき、右手形金等請求における訴求債権は富士紙工株式会社に対する債権の内金に過ぎず、右詐害行為取消しによつて保全されるべき債権は、右訴求部分に限定されるものではないということを理由に、右詐害行為取消請求は前記約束手形金等請求と経済的利益を共通にするものとはいえないと解する余地がないでもないが、右詐害行為取消しの結果取り戻されるべき物件の価額が右手形金等請求にかかる一部債権の額より少額であること及び詐害行為の取消権は債務者が無資力である場合に認められるものであることからすれば、特別の事情がない限り、右詐害行為取消請求はこれと併合された手形金等請求と経済的利益を共通にするものと解するのが相当である。そうすると、抗告人の日章紙工株式会社に対する詐害行為取消請求の訴額は、それより額の多い富士紙工株式会社に対する手形金等請求の訴額に吸収され独立に算定すべきものではなく、結局、富士紙工株式会社及び後藤庸視に対する各手形金等請求並びに日章紙工株式会社に対する詐害行為取消請求を合せた訴額は、三七一五万八八七五円である。なお、日章紙工株式会社に対する売掛代金請求の訴額が、その請求額により一五四万八七三一円であることはいうまでもない。

右の次第で、前記訴訟事件の訴額は、右各請求の訴額を合算した三八七〇万七六〇六円であり、これに対する手数料は一九万六九〇〇円であるから、抗告人は、納付すべき手数料の額を越えて八万六五〇〇円を過大に納付したことになり、右金額は抗告人に還付されるべきである。

よつて、右と結論を異にする原決定は失当であり、本件抗告は理由があるから、原決定を取り消し、抗告人に対し過納手数料八万六五〇〇円を還付することとし、主文のとおり決定する。

(田宮重男 真榮田哲 木下重康)

〔抗告の理由〕

一、抗告人は原決定の理由欄記載のとおり被告富士紙工株式会社・同後藤庸視の両名に対し約束手形金計金八二、六一二、八四七円及び売掛代金計一、一七三、三八九円、以上合計金八三、七八六、二三六円の債権を有するところ、同被告らに対しこの内金三七、一五八、八七五円を請求し、かつ被告日章紙工株式会社が被告富士紙工株式会社から代物弁済により物件を譲り受けた行為を詐害行為として取消を求め、物件の返還不能を理由に価額賠償として同被告に対し右物件価額計金一七、三五九、七〇二円の損害金並びに同被告に対する売掛代金一、五四八、七三一円以上合計金一八、九〇八、四三三円の請求をしていた(静岡地方裁判所富士支部昭和五一年(ワ)第一九七号)。

二、而して、右の訴提起に際し抗告人は手数料として金一一万〇、四〇〇円を納付した。

三、しかるところ、同庁は更に、八万六、五〇〇円の手数料の納付を命じたので、抗告人はこれを不承不承で追貼した。

四、しかし、抗告人が債務者(富士紙工株式会社、後藤庸視)に対してその請求債権金三七一五万八、八七五円を請求すると同時に、債務者と転得者(日章紙工株式会社)間の代物弁済を詐害行為としてその取消を求め、併せて物件の返還不能を理由に価額賠償を求めるときは、原決定のいうように、価額賠償は債務者に対する債権額に限定したとは認められないとするのは誤りである。

五、いうまでもなく、詐害行為取消権は債権保全のため認められるのであるから、債務者に対する請求額とは別に受益者に対して右債権額を超えて請求することを認めるものではなく、常に債務者に対する請求額の範囲に限定されていることは、事の性質上、当然であり、本件のように一部請求の場合も別異に解せられるものではない。

すなわち、一部請求だといつても、その請求の範囲内で詐害行為の取消を求め、その範囲内での価額賠償を求めているものであることも当然である。

六、然るに、原審はこれを全く別個に解してその合計額について納付を命じ、抗告人の本件申立を却下したことは失当である。

七、よつて、原決定の取消及び抗告人に手数料金八万六、五〇〇円を還付されたく、この抗告に及んだ。

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